
ワインと天国のデザートの秘密:トッシーノ・デ・シエロの物語
公開日: 2025-10-29
ワインと天国のデザートの秘密:トッシーノ・デ・シエロの物語
ホセのスペイン料理教室へようこそ!今日はキッチンから少し離れて、スペインで最も不思議で美味しいデザートの一つ、「トッシーノ・デ・シエロ」に隠された素晴らしい物語を探求してみましょう。
このデザートの名前を直訳すると「天国のベーコン」となりますが、材料は卵黄、砂糖、水の三つだけ。豚肉は一切使いません。では、なぜこのような名前なのでしょうか?そして、このデザートは一体どこから来たのでしょうか?答えは、スペイン南部アンダルシア地方の太陽と、シェリー酒の華やかな世界にあります。
ワイン造りが生んだ「黄金の余り物」
物語は14世紀のヘレス・デ・ラ・フロンテーラという街に遡ります。この街は、世界的に有名なシェリー酒の生産地です。
当時のワイン造りでは、「清澄(せいちょう)」という非常に重要な工程がありました。発酵を終えたばかりのワインには、酵母の死骸やブドウの皮の微細な粒子などが浮遊しており、少し濁っています。この不純物を取り除き、ワインを透き通った美しい液体にするために、昔のワイン職人たちは驚くべきものを使いました。それは卵の白身です。
卵白に含まれるアルブミンというタンパク質は、ワインの中に入れると、濁りの原因となる粒子を引き寄せてくっつき、重くなって樽の底に沈殿します。数週間後、上澄みのきれいなワインだけを別の樽に移せば、クリスタルのように輝くワインが完成するのです。
この方法は非常に効果的でしたが、一つの「問題」を生み出りました。それは、大量の卵黄が余ってしまうことでした。
修道女たちの甘い知恵
シェリー酒の生産量が多ければ多いほど、余る卵黄の数も膨大になります。一つの大きなワイナリーでは、年間何千、何万という卵黄が余ったと言われています。貴重な食材を捨てるわけにはいきません。
そこで登場したのが、街の修道院に住む修道女たちでした。彼女たちは、この大量の卵黄をどうにか活用できないかと考え、知恵を絞りました。そして生まれたのが、卵黄と砂糖を主役にした、この世のものとは思えないほど濃厚で滑らかなデザートだったのです。
- **「トッシーノ」(ベーコン)**という名前は、その黄金色に輝く見た目が、まるで豚の脂身のようだったことから。
- **「シエロ」(天国)**という名前は、神に仕える修道女たちが天国(修道院)で作った神聖なデザートであることから名付けられたと言われています。
つまり、トッシーノ・デ・シエロは、ワイン造りの副産物から生まれた、サステナブルな精神と創意工夫の結晶なのです。
キッチンでの挑戦
このデザートは、材料がシンプルな分、作り方は非常に繊細です。卵黄を泡立てずに混ぜること、シロップの温度を正確に管理すること、そして二度こすことで生まれる究極の滑らかさ。これらの一つ一つが、何世紀も前に修道女たちが見つけ出した「黄金の法則」なのです。
次にあなたがトッシーノ・デ・シエロを口にする時、または私のレシピで作る時には、ぜひこの物語を思い出してみてください。その一口には、シェリー酒の歴史、修道女たちの知恵、そしてアンダルシアの太陽の輝きが詰まっています。
料理は、単に食べるだけのものではありません。その背景にある文化や歴史を知ることで、味わいは何倍にも深くなるのです。